最終更新日 2025年4月30日

LPIC 306-300とは?概要と試験の位置づけ
本セクションでは以下の内容について解説します。
LPIC-3認定の構成と306-300試験の位置づけ
LPIC 306-300は、LPIC-3の中でも「高可用性(HA)とストレージ技術」に特化した専門分野試験です。
LPIC-3はLPIC認定の中で最上位に位置づけられ、エンタープライズレベルのLinux管理に関する深い知識と実務能力を証明する資格です。
LPIC-3には複数の専門分野(試験番号300、303、304など)があり、そのうち「306-300」は高可用性(High Availability)や冗長化、共有ストレージ構成などにフォーカスしています。

LPIC-3って複数あるんですか?全部受けないとダメですか?

いえ、LPIC-3は分野別の認定だから、たとえば306-300だけ合格すれば『LPIC-3認定(HAとストレージ分野)』になります。他の分野(セキュリティ、仮想化など)は任意で選択できますよ。

受験条件と前提資格(LPIC-2など)
LPIC 306-300を受験するには、有効なLPIC-2認定を保持していることが前提条件です。
つまり、LPIC-1とLPIC-2を順番に取得している必要があります(同時取得は不可)。
また、試験はLPIの公式テストセンターまたはオンラインで受験可能で、日本語対応もされています。

LPIC-1しか持っていないんですが、すぐ306-300受けられますか?

残念だけど無理ですね。LPIC-2を取得した状態でないとLPIC-3の受験資格はないですよ。順番通りにステップアップしていきましょう。

対象者と活用シーン(エンタープライズ領域での有用性)
LPIC 306-300は、可用性・ストレージの設計や運用に携わる中堅〜上級エンジニアを主な対象としています。
特に、冗長構成、HAクラスタ、分散ファイルシステム、共有ストレージの設計・運用スキルが問われるため、エンタープライズLinux環境の構築経験がある方に最適です。
企業や官公庁など大規模なインフラ環境では、可用性とストレージの管理は欠かせません。この資格は、そうした実務に直結する技術を証明するものとして評価が高まっています。

現場でクラスタ構成なんてやったことないんですが、受ける価値ありますか?

ありますよ。この資格の学習過程自体が、プロレベルのインフラ構築スキルを身につける訓練になります。将来的にインフラアーキテクトやSREを目指すなら特におすすめです。

LPIC 306-300 試験範囲の詳細(公式Objective準拠)
本セクションでは分野ごとに試験範囲を解説します。
- 高可用性クラスターの設計と構築(DRBD、Corosync、Pacemaker)
- ストレージ管理と共有ストレージ(iSCSI、LVM、RAID)
- ファイルシステムの高可用性(GFS2、OCFS2)
- クラスタリソースの管理と監視ツール
- クラスタでのフェイルオーバー構成とシナリオ
高可用性クラスターの設計と構築(DRBD、Corosync、Pacemaker)
LPIC 306-300では、PacemakerとCorosyncによるHAクラスタ構成と、DRBDによるブロックレベルのレプリケーションが中核テーマです。
Pacemakerはクラスタ内のリソース制御、Corosyncはノード間のメッセージングと投票機能を担います。DRBDはRAID1に似たブロックデバイスの複製をネットワーク越しに実現します。
これら3つの組み合わせにより、サービス停止を最小限に抑える高可用性のインフラが実現可能です。
試験範囲テーマ | 詳細内容 | 重要度 |
---|---|---|
DRBDの基本構成 | drbd.conf の構造、リソース定義、メタデータ初期化、同期モードの理解 | ★★★★☆ |
DRBDの操作と管理 | primary/secondaryの切り替え、再同期コマンド、ステータス確認 | ★★★★☆ |
Corosyncの設定 | corosync.conf の記述方法、マルチキャスト/ユニキャスト設定、quorum構成 | ★★★☆☆ |
Pacemakerのリソース管理 | crm コマンドによるprimitive/group/resourceの構成、起動順序や制約(order, colocation) | ★★★★★ |
クラスタ制御の制約定義 | リソース間の依存関係設定(location, colocation, order)の意味と使用例 | ★★★★★ |
STONITH(フェンシング) | STONITHの役割、設定方法、stonith-enabled の有効化 | ★★★☆☆ |
クラスタステータス監視 | crm status やcrm_mon の使用、リソースの状態確認、障害発生時の確認手順 | ★★★★☆ |
pcsツールの利用 | pcs によるクラスタ設定管理、GUI/APIとの連携、pcs status の読み方 | ★★★★☆ |

PacemakerとCorosyncって別物なんですか?

はい、それぞれ役割が違います。Corosyncはクラスタの通信レイヤー、Pacemakerはリソースの管理をするソフトです。基本的にはセットで動作させます。

ストレージ管理と共有ストレージ(iSCSI、LVM、RAID)
LPIC 306-300では、ストレージの構築・運用においてLVMとRAID、さらにiSCSIを利用したネットワーク共有ストレージの知識が求められます。
特にLVMのスナップショット、拡張・縮小操作、RAIDレベルごとの特徴と使い分け、iSCSIターゲット・イニシエーターの設定は頻出です。
これらは共有ストレージ環境やクラスタ構成時の前提知識として問われるため、実機検証を通じて理解することが重要です。
試験範囲テーマ | 詳細内容 | 重要度 |
---|---|---|
DRBDの基本構成 | drbd.conf の構造、リソース定義、メタデータ初期化、同期モードの理解 | ★★★★☆ |
DRBDの操作と管理 | primary/secondaryの切り替え、再同期コマンド、ステータス確認 | ★★★★☆ |
Corosyncの設定 | corosync.conf の記述方法、マルチキャスト/ユニキャスト設定、quorum構成 | ★★★☆☆ |
Pacemakerのリソース管理 | crm コマンドによるprimitive/group/resourceの構成、起動順序や制約(order, colocation) | ★★★★★ |
クラスタ制御の制約定義 | リソース間の依存関係設定(location, colocation, order)の意味と使用例 | ★★★★★ |
STONITH(フェンシング) | STONITHの役割、設定方法、stonith-enabled の有効化 | ★★★☆☆ |
クラスタステータス監視 | crm status やcrm_mon の使用、リソースの状態確認、障害発生時の確認手順 | ★★★★☆ |
pcsツールの利用 | pcs によるクラスタ設定管理、GUI/APIとの連携、pcs status の読み方 | ★★★★☆ |

先輩、パフォーマンス調査で top
や vmstat
はよく使うんですが、perf
って何ができるんですか?LVMとRAIDってどっちもストレージ管理ですよね?試験で両方出るんですか?

出ますよ。RAIDはハード的・冗長性重視、LVMは柔軟性と運用面重視。両方の特徴と使い所を覚えておかないと試験では厳しいです。

ファイルシステムの高可用性(GFS2、OCFS2)
GFS2やOCFS2といったクラスタ対応の共有ファイルシステムも試験範囲に含まれます。
GFS2はRed Hat系、OCFS2はOracle Linuxでの利用が多く、それぞれマウント条件やロック機構が通常のファイルシステムとは異なります。
複数ノードから同一ストレージを同時アクセスする設計で必須となる技術であり、理解していないとクラスタ構成においてデータ整合性が保てません。
試験範囲テーマ | 詳細内容 | 重要度 |
---|---|---|
GFS2の基本概念 | Red Hat系のクラスタファイルシステム、分散ロックマネージャ(DLM)の使用 | ★★★★☆ |
GFS2の構築とマウント手順 | mkfs.gfs2 による作成、クラスタID・ノードリスト設定、mount -t gfs2 の使用 | ★★★★☆ |
OCFS2の基本概念 | Oracleが開発したクラスタ対応ファイルシステム、シンプルな構成と互換性の高さ | ★★★☆☆ |
OCFS2の構築とマウント手順 | mkfs.ocfs2 による初期化、ocfs2 モジュールの有効化、クラスタ設定ファイル(/etc/ocfs2/ ) | ★★★☆☆ |
クラスタファイルシステムの違い | GFS2とOCFS2のアーキテクチャ・ロック制御方式・対応ディストリビューションの違い | ★★★★☆ |
同時アクセスの動作原理 | 複数ノードからの同時書き込みと整合性保持、フェイルオーバー後のマウント保持の要件 | ★★★★☆ |
通常ファイルシステムとの違い | ext4やxfsとの機能比較(同時アクセス・ロック・クラスタ統合) | ★★★☆☆ |

ext4と何が違うんですか?OCFS2とかって特殊すぎて使う機会なさそうですけど…

ext4は単一ノード用。OCFS2やGFS2は複数ノードから同時に使うためのファイルシステム。用途が違うから、試験では明確に区別されますよ。

クラスタリソースの管理と監視ツール
Pacemaker上で動作する各種リソース(IP、サービス、ファイルシステムなど)の設定と、クラスタの状態監視が重要な範囲です。
crmコマンドやpcsツールを使った構成変更、状態確認、リソースフェンス設定などが頻出です。
監視にはcrm_monやsystemd監視との連携も含まれ、クラスタ障害検知と迅速なフェイルオーバーのための設定スキルが求められます。
試験範囲テーマ | 詳細内容 | 重要度 |
---|---|---|
Pacemakerリソースの基本管理 | primitive の作成、group 、clone リソースの設定と使い分け | ★★★★★ |
リソース制約の設定 | location , order , colocation 制約の意味と設定例 | ★★★★★ |
crmコマンドの活用 | crm configure によるリソース追加・削除・編集、設定のインポート・エクスポート | ★★★★☆ |
pcsツールの利用 | pcs cluster , pcs resource , pcs status などの使用法と管理タスク | ★★★★☆ |
リソースの状態確認と制御 | crm status , crm_mon の活用、リソースのスタート・ストップ・移動 | ★★★★☆ |
リソースフェンシング(STONITH) | フェンシングリソースの追加、stonith-enabled の有効化、失敗時の挙動確認 | ★★★☆☆ |
クラスタ全体の状態監視 | 障害検知とログ確認(/var/log/pacemaker.log など)、ノード状態の識別 | ★★★★☆ |
自動復旧・障害シナリオ対応 | リソース障害後の自動移動・復旧挙動の設定、failcount と recovery ポリシーの活用 | ★★★★☆ |

crmとpcsって何が違うんですか?両方覚えないとダメ?

crmはコマンドラインツール、pcsはGUIやRESTも使える高機能ツール。環境によってどちらも使うので、両方触っておくといいですよ。

クラスタでのフェイルオーバー構成とシナリオ
障害発生時の自動切替(フェイルオーバー)の仕組みと、そのテストシナリオの理解が必須です。
IPリソースの移動、ストレージのマウント切替、サービス再起動など、クラスタ構成の一貫として「意図した通りに切り替わる設計」を問われます。
試験では、フェイルオーバーが正しく構成されているかを前提とした選択肢問題や、トラブルシュートを問う問題が出題されます。
試験範囲テーマ | 詳細内容 | 重要度 |
---|---|---|
フェイルオーバーの基本動作 | ノード障害時のリソース自動移動、ステータス監視と応答の仕組み | ★★★★★ |
リソース移動の手動操作 | crm resource move / pcs resource move による手動フェイルオーバー | ★★★★☆ |
クラスタの復旧ポリシー | failure-timeout , on-fail , migration-threshold の設定と意味 | ★★★★☆ |
フェンシングと安全な切替え | STONITHを用いたノード隔離と、分裂ブレイン(split-brain)回避 | ★★★★☆ |
シナリオ別対応例 | 片方のノード停止、ネットワーク断、リソース単体の異常など複数ケースへの対応 | ★★★★☆ |
マルチリソースの連携制御 | サービス、IP、ストレージなどのリソース間の依存関係設定と起動順制御 | ★★★★★ |
クォーラム設定の影響 | ノード数と投票による動作判断、フェイルオーバーの可否に与える影響 | ★★★☆☆ |
フェイルオーバーテストの実施方法 | テスト環境での障害注入(ノード強制停止、ネットワーク遮断)、確認すべきログや挙動 | ★★★★☆ |

障害時にどうなるかって実機じゃないとわからないですよね?

その通り。仮想環境でもいいからフェイルオーバーの動きを実際に体験しておくと、試験でも混乱しませんよ。

出題傾向と過去問から見る重要テーマ
本セクションでは以下の内容について解説します。
頻出技術と注目のキーワード(Pacemaker、DRBD、LVM)
LPIC 306-300では、「Pacemaker」「DRBD」「LVM」が特に高頻度で出題されます。
Pacemakerに関してはリソースの設定・制約条件・ステータス確認などの応用的な内容が多く、単なる機能理解ではなく構成力が問われます。
DRBDはブロックレベルのレプリケーションの構成手順や同期モードの種類、LVMはスナップショットやボリューム管理の実操作が焦点です。

試験でPacemakerってどこまで覚えるべきですか?

crmやpcsでリソース制御・フェイルオーバーを構成できるレベルが求められます。設定ファイルを見て不備を見抜く力も大事ですよ。

難易度と設問の形式(選択・記述)
設問形式は選択式が中心ですが、実務的なシナリオを前提とした「多肢選択」や「穴埋め式」も含まれ、難易度はLPIC全体で最も高い部類に入ります。
例えば、リソース障害時の対応フローを問う問題や、設定ファイルの構文エラー箇所を見抜くような応用問題が出題されます。
単なる用語暗記だけでなく、設定の理解・構成全体の流れを把握しておくことが重要です。

記述式ってありますか?コマンド打たせる感じですか?

LPICでは純粋な記述式は出ません。でも、コマンドラインの構文選択や、設定ファイルの空欄補完はあるので油断禁物です。
学習優先度の高い分野とは?
学習優先度が最も高いのは、PacemakerとDRBD、次いでLVM・iSCSI・クラスタファイルシステム(GFS2、OCFS2)です。
これらは実務における構成基盤であり、試験でも全体の半分以上を占める傾向にあります。
他にも、STONITH設定、クラスタネットワーク構成、フェンシング設定なども押さえておくと安心です。
優先順位 | 分野カテゴリ | 代表トピック | 優先学習の理由 | 学習優先度 |
---|---|---|---|---|
1 | クラスタリソース管理 | Pacemaker、crm/pcs、リソース制約、STONITH | 高可用性構成の中核。構成力と障害時の挙動把握が試験の最重要テーマ。 | ★★★★★ |
2 | フェイルオーバー構成 | リソース移動、復旧ポリシー、障害シナリオ | 実務的な障害対応力と構成設計力が問われ、試験でも応用的な設問が多い。 | ★★★★★ |
3 | DRBDによるレプリケーション | DRBD設定、同期モード、状態確認 | ストレージ冗長化の基本技術。構築・操作・障害時の対応が頻出。 | ★★★★☆ |
4 | LVMとRAIDの管理 | PV/VG/LV、スナップショット、RAIDレベルの選定 | 柔軟なストレージ設計と障害対策に必要な基礎スキル。DRBDやiSCSIと組み合わせて出題される。 | ★★★★☆ |
5 | iSCSI構成 | ターゲット設定、イニシエーター、永続化設定 | 共有ストレージの基盤技術。LVMやクラスタと連携した実装力が求められる。 | ★★★★☆ |
6 | クラスタ監視とログ管理 | crm_mon、pcs status、ログ確認 | 異常検知と初動対応の判断力が問われる。実務でも重要なスキル。 | ★★★★☆ |
7 | GFS2/OCFS2ファイルシステム | クラスタ対応FSの選定、作成手順、同時アクセスの仕組み | 通常FSとの違いを理解し、クラスタ内での活用に結びつける応用的な出題が多い。 | ★★★☆☆ |
8 | CorosyncとQuorum設定 | 通信設定、quorumポリシー、split-brain対策 | クラスタ安定稼働の基礎。トラブルの根本原因に直結するため出題されやすい。 | ★★★☆☆ |

全部やろうとすると多すぎて手が回らないです…

PacemakerとDRBDを完璧にするだけでも合格圏に入ります。そのうえで、クラスタのシナリオ問題や監視設定を追加で抑えましょう。


ゴリタン
インフラエンジニアとして、ネットワークとサーバーの運用・保守・構築・設計に幅広く携わり、
現在は大規模政府公共データの移行プロジェクトを担当。
CCNPやLPICレベル3、AWSセキュリティスペシャリストなどの資格を保有しています。