最終更新日 2024年12月6日
インフラエンジニアになりたてのSESエンジニアは初めはPMOの業務をやることが多い?
インフラエンジニアとして新卒で入社した方や、IT業界に転職してインフラエンジニアになった方、特にSES企業に就職した場合、最初に任される仕事がPMO業務になることが多い傾向があります。
また、X(旧Twitter)での投稿からも、SES企業でインフラエンジニアとして入社した方が最初にPMO業務に携わることが多いことが分かります。
この記事では、SES企業の若手エンジニアはなぜPMOの案件を任される傾向にあるのか、その理由を記載します。
今回の記事で解説する内容の全体像は以下の通りです。
インフラエンジニアにおけるPMOの概要
まず最初に、SES会社が新人エンジニアにPMO業務の案件を任せたがる理由を解説するために、インフラエンジニアにおけるPMOとは何なのか、概要から解説します。
概要として解説する内容は下記の3つです。
ちなみに記事全体像におけるPMOの業務に関する説明部分は下記の赤枠部分です。
インフラエンジニアのPMOとは
PMOとは「Project Management Office」の略称で、一言で言うとPMOとは、プロジェクトがスムーズに進むようにサポートする役割のことです。
具体的に言うと、プロジェクト管理やサポートに関わる業務を担当する役割を指します。
プロジェクトの進捗を管理したり、必要な情報を整理・共有し、チーム間の連携を円滑にするという役割です。
日本PMO協会ではPMOは以下のように定義しています。
MO (Project Management Office) について
PMOとは”Project Management Office(*1)”の略です。日本語では「プロジェクトマネジメントオフィス」、「プログラムマネジメントオフィス」と一般的に呼ばれます。PMOは、組織内における個々のプロジェクトマネジメントの支援を横断的に行う部門や構造システムを言います。
一般的なPMOの主な役割は以下の通りです。
プロジェクトマネジメント方式の標準化
プロジェクトマネジメントに関する研修など人材開発
プロジェクトマネジメント業務の支援
プロジェクト間のリソースやコストの各種調整
個別企業に適応したプロジェクト環境の整備
その他付随するプロジェクト関連管理業務(*1)企業組織やプロジェクト規模によっては、Program Management Office, Portfolio Management Officeと呼ばれることもあります。
PMOとは? – 日本PMO協会|NPMO
PMOとしてアサインされる場合、2つのパターンがあります。1つ目は、PMO専門チーム(PMO業務のみを行うチーム)に入って業務を行うケースです。2つ目は、技術チーム(ネットワークやサーバーの構築チームなど、エンジニアがいるチーム)に入りながらPMO業務を行うケースです。
どちらのケースでも、業務内容に大きな違いはありません。
1つ目のPMO専門チームは、大規模なプロジェクトで編成されることが多く、中規模や小規模のプロジェクトでは組まれないことが一般的です。一方で、2つ目の技術チーム内にPMOが配置されるケースは、プロジェクトの規模に関係なく要員を用意することが多いです。
インフラエンジニアのPMOの役割
インフラエンジニアのプロジェクトにおいて、PMOはエンジニアが技術的な作業に専念できるよう支援する役割を担っています。
具体的には、進捗管理やコミュニケーションの調整といったサポート業務を行います。
例えば、エンジニアの会議に参加して議事録を作成したり、プロジェクトに参加するために必要な申請手続きを代行するなどです。
PMOはエンジニアが効率よく働ける環境を整える「秘書」のような存在です。
インフラエンジニアのPMOの仕事内容
PMOは、コミュニケーション管理、進捗管理、文書管理などを担当し、プロジェクトを円滑に進めるためのサポートを行います。以下は、私が実際に現場で経験した業務を例に説明します。
1. コミュニケーション管理
PMOは、プロジェクト内の複数のチーム(例えばサーバチーム、ネットワークチーム、PMチームなど)が円滑に連携できるよう、情報の橋渡しを行います。
具体的には、他のチームのチャット内容を確認し、自分のチームに必要な情報があれば、それを整理して共有します。(基本的にPMOはプロジェクト内の全チームのチャットに参加し、流れるチャットの内容を確認します。エンジニアは自分のチーム以外のチームのチャットグループには参加せず、自チームのチャットグループのみ参加することが多いです。)
例えば、自チーム以外のチャットグループで、「お客様から『⚫︎⚫︎の点を修正してください』という情報が流れた場合、自チームのグループチャットにその内容をコピペして周知します。
2. 進捗管理
PMOは、自分のチームメンバーがスケジュール通りに作業を進められているか確認します。
例えば、自チームのエンジニアが、作業手順書を⚫︎/⚫︎までに顧客に提出する必要がある場合、期日内に提出が完了しているかをチェックします。ちなみに、資料提出は基本的にはPMOが実施し、エンジニアの方は行わないため、資料提出期限の夜遅くにエンジニアの方が作成し終わった場合、その後の資料提出をPMOが行う必要があるので、その資料提出が終わるまでPMOは帰れません。
3. 文書管理
PMOは、プロジェクトでやり取りされる資料を一元的に管理します。
例えば、お客様から受け取った資料を専用フォルダに保管したり、エンジニアが作成した手順書や資料を、PMOが代理で顧客に提出したり、提出後の資料も整理してフォルダに保管し、チーム全体が必要なときにすぐアクセスできるようにします。
このような資料の管理もPMOが実施します。
4. その他の業務
他にもPMOは、さまざまなサポート業務も行います。
例えば、顧客との会議で議事録を作成し、関係者に共有したり、エンジニアが作成した資料や手順書の誤字脱字をチェックし、品質を管理したり、顧客会議での資料投影などを行います。
PMOは、プロジェクト全体の調整役として、エンジニアが技術的な作業に集中できる環境を整える「裏方」のような役割を担っています。コミュニケーション、スケジュール、資料などを丁寧に管理し、プロジェクト成功に向けてサポートするのがPMOの主な仕事です。
新人エンジニアがPMOを任されがちな理由
次に新人エンジニアがPMOを任されら傾向にある理由を説明します。
記事内容の全体像で言うと以下赤枠の部分です。
事務作業が中心のためスキルがなくてもやれるため
PMOの業務は主に事務作業が中心で、専門的なスキルや知識がなくても対応しやすい内容が多いです。一方で、エンジニアの業務は高度な知識やスキル、実績が求められ、対応が難しい場合が多くなります。そのため、PMOはインフラエンジニアとして経験の浅い若手や、新入社員、新卒など、IT業界に入ったばかりの人が担当することが多いポジションです。
また、SES企業が協力会社としてお客様先に常駐する場合、案件に応じた単価調整が求められます。お客様側では、高いスキルを持つエンジニアにはコストをかけざるを得ない一方で、対応可能な人が多く、スキルがそれほど高くなくてもこなせるPMO業務にはコストを抑える傾向があります。そのため、PMOには比較的単価の低い若手がアサインされるケースが多かなりがちです。
PMO業務が慣れたらエンジニアに転向させたいという会社の戦略があるため
SES企業では、インフラエンジニアとして経験が浅い人や未経験の人に対して、まずはPMOとして現場に参加させ、その後慣れてきた段階でエンジニアとしての仕事に移行させるという方針を取ることがあります。
これは、現場に徐々に慣れながらスキルを身につけていくプロセスを重視しているためです。エンジニアの世界はスキルと経験がものをいう厳しい環境であり、最初から難易度の高いオーバースペックな現場に配属されると、常駐先で叱責を受けることが増え、精神的に追い詰められて退職してしまうケースが多々あります。私の現場のチームメンバも病んで辞めてしまった方がいます。
そのような状況を避けるため、まずはPMOとして現場の雰囲気やプロジェクトの進め方を理解しながら土台を築き、その後エンジニアとしてのスキルを段階的に伸ばしていくほうが望ましい、と考える人も多いです。こちらの方が、一見遠回りに見えるかもしれませんが、未経験者にとっては精神的にも負担が少ないため、厳しい現場に配属して精神を病むよりは、徐々にステップアップする方が本人のためになっているとも言えます。
プロジェクトの進め方や進捗管理をまず学んでもらうため
エンジニアとしての経験が浅い人や未経験の人は、まずプロジェクトの進め方や基本的なルールを学んでもらうためにPMOとして配属されることがあります。これは、エンジニアとして配属されても、プロジェクトの進め方が分からないと、技術以前の段階でつまずいてしまうことがあるからです。
例えば、エンジニアは客先で設定変更などの作業を行う際に、「作業手順書」という手順を詳細に記載した資料を作成し、顧客に提出する必要があります。しかし、スキルがあっても作業手順書が何か分からなかったり、作り方を知らなければ、作業を進めることができません。その結果、プロジェクトが滞り、周囲に迷惑をかけてしまう可能性があります。
そのため、プロジェクトの進め方やルール、作業の基本的なお作法を身につけてもらうために、まずはPMOとして現場に慣れてもらうケースがあります。
他に提案できる案件がないため
PMOとして配属される理由には、「他に適切な案件がない」という場合もあります。SES企業も他の企業と同様に売上を上げる必要があり、エンジニアが待機状態のままだと売上が立たず、会社にとって好ましくありません。
各部署には売上のノルマが設定されており、そのノルマは部署内のエンジニアの目標単価の合計で決まります。待機状態が続くと、ノルマ達成が難しくなり、部署の成績にも影響が出てしまいます。そのため、他に案件が見つからない場合、売上を確保するためにPMOとして配属されるケースもあります。
本人の適性をみて判断したため
PMOに配属される理由として、純粋にその人にPMOとしての素質や適性があると判断された場合もあります。たとえ本人がエンジニアを希望していても、実際に仕事をしてみないと向き不向きは分からないことも多いです。
例えば、PMOとして働いてみて、自分に合っていると感じたり、逆に一緒に働くエンジニアを見て「この働き方は自分には向いていない」と気づき、そのままPMOとしてキャリアを続ける人もいます。実際に私の周りにもそうしたケースがありました。
PMOには、きっちりと仕事を進め、与えられたタスクを淡々とこなせるタイプの人が向いています。また、PMOの仕事は主に事務作業であるため、残業が少なく責任の重さも比較的軽い傾向があります。このため、プレッシャーに弱い人や、ワークライフバランスを重視したい人にも適した職種と言えます。
このように、仕事を淡々と進められる性格や、ワークライフバランスを優先したいといった本人の希望や適性が合っている場合、PMOとして配属されることもあります。
本人が希望したため
本人がPMOを希望した場合も、PMOに配属される理由になります。SES企業に入社すると、どんな案件に関わりたいかをヒアリングされたり、アンケートに答えたりする機会があります。その際に「PMOにも興味がある」などと回答すると、PMOとして配属されることがあります。
例えば、希望する案件を3つ挙げるよう求められたとき、3番目にPMOを挙げると、それだけで「PMOを希望している」と捉えられることがあります。結果として、「なんとなくPMOに興味がある」と答えただけの場合でも、希望していると判断され、PMOに配属されることになるのです。
会社の都合によりPMOになってしまった場合は会社に自分の意思を伝えよう!
エンジニアを目指してIT系の企業に転職したにもかかわらず、会社の都合や理由で意図せずPMOとして配属されることは、SES業界では珍しくありません。このような状況を避けるためには、事前に自分の意思をしっかりと伝えておくことが重要です。
私が一緒に働いている現場でも、エンジニアとして入社したはずなのに、なぜかずっと議事録作成などのPMO業務を任され、不満を感じて退職してしまった人を何人も見てきました。このようなミスマッチを防ぐためにも、「PMOではなくエンジニアとして働きたい」など、希望する案件や業務内容を明確に伝えることが大切です。
希望があれば、遠慮せずしっかり主張し、会社ときちんと意思疎通を図るようにしましょう。
ゴリタン
インフラエンジニアとして、ネットワークとサーバーの運用・保守・構築・設計に幅広く携わり、
現在は大規模政府公共データの移行プロジェクトを担当。
CCNPやLPICレベル3、AWSセキュリティスペシャリストなどの資格を保有しています。